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【withコロナ】マスク着用とソーシャルディスタンスでCOVID-19を抑制できるのか?

2022/9/29
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2022-07-21 内容を一部修正しました。
2022-09-29 内容を一部修正しました。
兵庫県の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の新規発生は、5月16日以降ありませんでしたが、6月19日に1件発生がありました。神戸市広報課のツイートによると、6月6日時点で市内の感染者数がゼロになったそうです。

徐々に日常生活が戻ってきています。県をまたいだ移動も自粛が緩和され、学校の授業の再開や企業の活動も再開してきています。また、プロ野球もやっと開幕するとのことで、自粛していたスポーツやエンターテイメントといったイベントも少しづつ復活するようです。

一方で、東京や北九州では“接待を伴う飲食業”や“高齢者施設”での患者の発生が報告されています。一見感染者が増えているように見えますがおそらくそうではなく、厚生労働省がこれまで「濃厚接触者でも無症状の人はPCR検査を受けない」としていた方針を、PCR検査体制の拡充に伴い「濃厚接触者は無症状でもPCR検査を行う」方針に変更したため、広く把握ができたためと思われます。
依然として水面下で感染は続いていることを示すもので、都道府県をまたぐ人の往来ができるようになるこれからの時期、ここで感染予防対策を怠れば再び感染増加につながりかねません

今回のブログでは最近の論文から現時点でのCOVID-19予防としてのマスク着用とソーシャルディスタンスの必要性を、最新の論文の内容をご紹介しながら考えてみます。

マスクや人との距離を取ることでCOVID-19は予防できるのか?

まず、2020年6月1日Lancet誌にオンライン掲載された論文をご紹介します。この論文では過去に発表されたコロナウイルス(SARS-CoV-2やSARSの原因ウイルス、ベータコロナウイルス)で、ソーシャルディスタンスやマスク・ゴーグルがどのくらいの感染予防効果があるのかをシステマティックレビューやメタ・アナライシスという方法を用いて解析を行ったものです。現在のWHOのマスク着用に対する考え方はこの論文の内容を踏まえていると思われます。

Physical distancing, face masks, and eye protection to prevent person-to-person transmission of SARS-CoV-2 and COVID-19: a systematic review and meta-analysis


これによるとウイルス感染は物理的距離が1メートル以内と1メートル以上で比較した場合、1メートル以上で82%ウイルス感染が低かったということです。また、距離が長いほど感染が低いという結果でした。
マスクの着用については、着用しない場合と比較して85%予防効果があり、特にN95マスクやサージカルマスクで効果が高かったという結果です。
目の保護具については78%の防御効果が見られています。

以上の結果から、現在COVID-19感染予防策として行われているソーシャルディスタンスを保つことや可能な限りマスクを着用し続けることは、個人の感染防御策として重要であり、今後も必要な対応であると考えられます。

個人での対策として、ソーシャルディスタンスやマスク着用が感染防御に重要なことはわかりました。では、社会全体で考えた場合、COVID-19の感染防御策としてのにソーシャルディスタンスやマスク着用が、感染拡大を抑制することに役立つのでしょうか?

社会的に見て、マスク着用は感染抑制効果が期待できるのか?

次の論文は2020年6月11日にPNAS(米国科学アカデミー紀要)にオンライン掲載された論文です。
Identifying airborne transmission as the dominant route for the spread of COVID-19
PNAS first published June 11, 2020 https://doi.org/10.1073/pnas.2009637117
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新型コロナウイルスの感染は中国武漢から始まり、その感染の中心はイタリアやニューヨークに広がっていきました。それぞれの地域での感染対策と感染者数を検討した内容です。これによると、当初ソーシャルディスタンスを取ることのみでマスク着用を義務化していなかった期間と、ソーシャルディスタンスに加えてさらにマスク着用を義務化した期間を比べると、感染者の抑制はマスク着用義務化を行った後に効果が見られています。さらに、上の図のように、途中からマスクを義務付けたニューヨークと、マスクを義務化しなかった他のアメリカ地域を比較した場合、ニューヨークでは感染拡大が抑えられたのに対し、他のアメリカ地域では抑えられていないことがわかります。

このことから、感染抑制の効果を都市レベルで考えると、ソーシャルディスタンスのみでは不十分で、マスク着用の義務化が必要と考えられます。論文ではCOVID-19の感染拡大にはエアロゾル飛沫の関与が飛沫感染や接触感染よりも大きいと結論づけています。
(個人的にはエアロゾル感染についてはまだまだ議論の余地が残るところと思います。)


以上、2つの論文を合わせて考えると、外出時は可能な限りマスクを着用して、ソーシャルディスタンスをとる対策を、今後も継続して行っていく必要があると考えて良さそうです。
少なくとも、ワクチンが実用化されて効果が実証されるまでは、これらの対策が必要と思います。

運動の際にマスクを外して良い状況とは?

では、ランニングを行う際にマスクをはずしていいのはどんな場面でしょうか?

前回のブログで、熱中症予防のためマスクを着用しながらの運動は避けるべきと書きました。マスク着用が身体にもたらす影響を室内で短時間で比較的強い負荷のランニングで検証してみました。個人的な感想ですが、マスクを着用すると体内に熱がこもりやすく、水分補給もしづらくなるため熱中症の危険が高いと考えます。よって、これからの時期のランニングは直射日光の影響で体温が上がりやすくなり、熱中症の危険が高まると考えられますので、マスクははずすべきと考えます。
ソーシャルディスタンスが十分に取れる場合はマスクを外すことができると考えます。よってランニングを行うとすれば、早朝や夜間の気温が比較的低い時間帯に、コース上で「3密」をさける事ができる場合と考えます。

また、必然的にマスクを外さなければならない場面を考えてみると、一例として飲食店で外食する場合が挙げられます。
ついたてなど飛沫が飛ばないように対策がしてあればいいですが、そうでない場合は感染リスクが高くなると思います。飛沫を飛ばさないためには余計なおしゃべりをせずに食べることが重要です。食事の前後には手洗いの励行による接触感染の予防も重要です。

withコロナの状況で迎える初めての夏です。感染防止と熱中症防止の両立が必要です。うまくマスクを利用して乗り切っていきたいですね。

【2020年4月時点】新型コロナウイルス感染症に対する対応について(診察体制について)

2020/4/19
前回のブログでは新型コロナウイルス感染症に対する消毒など、おもにハード面での対応について記しました。来院される患者さんが安心して診療を受けられるように、日々診療体制の見直しを行っています。今回は、当院が2020年4月現在時点で行っている新型コロナウイルス感染予防の対策のうち、主にソフト面での対策を中心にご紹介します。

一般の方の診察と、発熱・呼吸器症状のある方の診察の時間的・空間的分離

今通院されている方が一番心配されているのが、一般の方は院内で感染がある方から移ってしまうことだと思います。また逆に発熱・呼吸器症状がある方は他の方に移してしまうのではないかという心配の声を聞きます。当院では一般の方の診察と発熱・呼吸器症状がある方の診察を可能な限り分離することとしました

1.時間的分離(診察時間の分離)

一般の方の診察時間と、発熱・呼吸器症状のある方の診察時間を分けることで、接触の機会を減らすこととしました。午前の診察時間を変更し、一般の方の診察を早く終え、その後に発熱・呼吸器症状のある方専用の診察時間といたします。

一般の方の診察時間 9:00-11:30(最終受付11:15)
発熱・呼吸器症状のある方の診察時間 11:30-12:00

※午後の診察時間は原則として発熱・呼吸器症状のある方の診療は行いません。
※発熱・呼吸器症状のある方の診察には準備が必要で、時間を要します。直接来院されても診察できません。診察希望の方はあらかじめ電話にて連絡をいただき、受診を調整させていただきます。
※当日に発熱・呼吸器症状のある方の診察がない場合、今まで通り12:00まで一般の方の診療を行います。

2.空間的分離(診察場所・動線の分離)

一般の方の診察はこれまで通り行います。発熱や呼吸器症状のある方の診察に際し、通常とは別の場所から院内に入っていただくことで動線を可能な限り分離します。また、診察は原則として別フロアで行うことで、空間的分離を図ります。(診察時には標準防御策に加え、サージカルマスク・ガウン・フェイスシールドやゴーグルの着用を行う場合があります。)

院内での「3密」を避ける対策

すでにご存じの方も多いと思いますが、コロナウイルス感染症の集団感染を避けるためには、「3密」つまり、「密閉空間」「密集場所」「密接場面」にならないように対策を取る必要があります。当院では以下のような対策を行っています。

1.定期的な換気

当院の構造は窓が多数存在します。待合室・受付の奥・診察室・処置室の窓を開け、空気が滞留しないように定期的に室内の換気を行っています。また待合室の人数が多い場合も適宜換気を行います。(患者さんの中には寒いと感じられる方があるかもしれませんが、上着を持参いただくなど,ご協力・ご理解をお願いします。)
待合室では空気清浄機を常時使用しています。

2.待合室の椅子の配置の見直し

待合室椅子配置見直し
この度当院の待合室の椅子の配置を見直しました。これにより患者さんどうしの間隔を広げることができました。また、自家用車で来院の方は診察まで車内で待機をしていただくこともできます。

3.当日順番予約の活用

当院では以前より午前の診察には当日順番予約を採用しています。9:00-10:00ごろは待合室が混雑しやすいですが、事前に順番予約を利用していただくことで、診察の順番が近づくまでの時間を有効利用していただけます。予約なしでも診察を行いますが、待ち時間が長くなる場合があります。できるだけ多くの方がこの順番予約を活用していただくことで、待合室の混雑を減らすことができます。パソコン・スマホ・携帯電話から当日の9:00から予約ができ、順番が近づくとメール送信でお知らせします。また電話でも予約を行うことができ、大体の待ち時間をお知らせしますので、時間に合わせて来院をお願いします。
※午後の診察は予約はありませんので、直接来院をお願いします。

定期通院されている方の電話再診について

電話再診
コロナウイルス感染症の全国的な感染拡大に伴い、現在臨時の対応として電話での再診と処方が認められています診察時間内にお電話をいただくことで、診察を行います。定期的に受診されている方で病状に大きな変化がない方が対象となります。処方箋は当院より薬局へFAXを行います。なお、診察なしの処方箋の発行は認められていませんのでご了承ください。(電話での診察の結果、病状に変化があるなどの理由で、来院をお願いすることがあります。)

通院中の患者さんへのお願い

新型コロナウイルスは現在拡大傾向にあり、収束までには相当の時間がかかると思われます。来院された際には発熱などの症状がないか伺ったり、検温やアルコールによる手指消毒にご協力いただくなど、普段よりもお手間を取らせています。感染予防対策は、現在進行形で日々見直しを行ってまいります。通院されている患者さんのご意見を是非参考にさせていただきたいと思います。よろしくお願いいたします。

【2020年4月時点】新型コロナウイルス感染症に対する対応について(健康管理・感染防御対策)

2020/4/27
新型コロナウイルス感染症の拡大に伴い、2020年4月7日兵庫県に緊急事態宣言が発出されました。ウイルスという見えない敵に立ち向かう時、今後の先行きが見通せず不安な気持ちで毎日を過ごされている方も多いと思います。当院は地域の医療機関として、来院される方の健康、特に現在通院されている患者さんの健康を守ることを第一に、現在もこれからも診療を続けてまいります。地域の皆さんに安心して通院をしていただくために、現在当院で行っている感染予防対策をご紹介したいと思います。

職員の健康管理

職員が健康でなければ、診療を安全に行うことができません。出勤時・退勤時の体温測定やかぜ症状の把握を行うことで、健康管理をしっかり行っています。また、医師・看護師・受付職員は常時サージカルマスクを着用しています。また、必要に応じて手袋・ガウン・フェイスシールドやゴーグルを着用し診療に当たります。

手指衛生・物品消毒の徹底

新型コロナウイルスの予防に一番大切なポイントは手洗い・消毒です。当院は消化器内科であり、従来より手指衛生には気を使っていますが、現在より一層徹底した手洗いと手指消毒を行っています。

当院で診察を受けたことがある方はご存知かもしれませんが、私は身体診察が終わった後すぐにに手指をアルコール消毒しています。そして患者さんが診察室から離れて、次の患者さんが診察室に入るまでの間にもう一度手指をアルコール消毒を行っています。また、聴診器やペンライトなどもすぐにアルコール消毒しています。このスタイルは以前と変わりなく続けています。(かつて勤めていた病院で、スタッフから「先生、アルコール消毒好きやなー。先生の診察のあとアルコール補充が多いわ」といわれたことがあります。もちろん、処置を行った際には石鹸を使った手洗いも行います。)

また、スタッフも手指衛生には十分に注意を払っています。また、医療従事者が使う物品や机・椅子はもちろん、患者さんの触るドアノブ・手すり・ガラス面や体温計などの物品や椅子・ベッドなどもアルコールや次亜塩素酸ナトリウムを用いて随時消毒を行っています。
アルコール噴霧器手順
患者さんにも手指のアルコール消毒のご協力をお願いしています。以前は玄関前に手指消毒用のアルコールポンプスプレー1台のみでしたが、2月からは診察室前にも設置していました。この度これに変えて、アルコールの自動噴霧器を設置しました。ご高齢の方には慣れない方もいらっしゃるようですので、スタッフにお気軽にお声がけください。(噴霧器のそばに手順を示した写真を準備しました。)
アルコールに過敏症がある方は行っていただかなくて結構ですので、お気軽にお申し出ください。

飛沫感染の防止策

最近来院される患者さんのほとんどがマスクを着用されています。咳エチケットが少しづつ徹底されてきているのを感じます。
医師・看護師・受付スタッフは、飛沫感染防止のためサージカルマスクを常時着用しています。また、受付スタッフは現金や保険証などを扱いますので、手袋を着用しています。ご理解をよろしくお願いいたします。
受付飛沫感染防止カーテン
4月26日受付窓口の飛沫感染防止のため、透明ロールスクリーンを設置しました。(これまでの見栄えのあまり良くなかった透明シートを置き換えました。)
来院される患者さんにも、受付職員にも安心して対応できるよう、今後も随時対策を行ってまいります。

【日本の論文紹介】ピロリ菌除菌はボノプラザンを使えば2剤でも3剤併用と同様の除菌結果が期待できるのか!?

2020/3/29
ピロリ菌陽性の胃
今回の記事は、ピロリ菌除菌についてです。ピロリ菌は胃の粘膜に定着すると胃潰瘍・十二指腸潰瘍や胃がんなどを引き起こす細菌です。ピロリ菌の除菌を行うと、胃潰瘍・十二指腸潰瘍の再発抑制効果や、胃がん発生率の低下の効果が実証されています。ピロリ菌の除菌療法が世界中で行われており、日本でも保険適応となっています。

当院ではピロリ菌の診断治療を積極的に行っています。
血液検査で胃がんリスクを調べる胃がんリスク検診(ABC検診)はこちらを参照ください。

ピロリ菌除菌療法の基礎知識

論文の内容に入る前に、除菌療法の基礎知識について触れておこうと思います。

除菌には胃酸分泌抑制剤と抗菌薬の併用療法が行われていますが、近年抗菌薬の一つのクラリスロマイシンに対して耐性を持つピロリ菌が出現し、除菌率の低下が問題になっています。
これまで胃酸分泌抑制剤としてプロトンポンプ阻害薬(PPI)を含む併用療法が広く使われていましたが、クラリスロマイシンに対する耐性菌により除菌率は70%程度に低下が問題になっていました。
2014年にPPIよりも強力な酸分泌抑制効果があるボノプラザン(カリウムイオン競合型アシッドブロッカー:P-CAB)が発売され、以後除菌療法に用いられています。このボノプラザンと抗菌薬アモキシシリン・クラリスロマイシンの3剤併用療法(VAC療法)では、クラリスロマイシン感受性菌だけでなく、クラリスロマイシンに耐性菌に対しても約90%の高い除菌率を示したことから、日本ではピロリ菌の一次除菌療法として広く行われています。
 
今回の記事では、日本人を対象に、ピロリ菌除菌療法のVAC療法のうち耐性菌の問題があるクラリスロマイシンを除いた、ボノプラザンとアモキシシリンの2剤併用療法(VA療法)の除菌効果を、VAC療法と比較検討した論文を紹介します。

論文の紹介

今回は、ピロリ菌の除菌療法についての論文でGutに掲載された"Seven-day vonoprazan and low-dose amoxicillin dual therapy as first-line Helicobacter pylori treatment: a multiplecentre randomised trial in Japan (ヘリコバクター・ピロリ一次除菌療法としての7日間のボノプラザンと低用量アモキシシリンによる2剤併用療法:日本での多施設での無作為比較試験)"を紹介します。
Seven-day vonoprazan and low-dose amoxicillin dual therapy as first-line Helicobacter pylori treatment: a multicentre randomised trial in Japan.
Suzuki S, Gotoda T, Kusano C, Ikehara H, Ichijima R, Ohyauchi M, Ito H, Kawamura M, Ogata Y, Ohtaka M, Nakahara M, Kawabe K.
Gut. 2020 Jan 8. pii: gutjnl-2019-319954. doi: 10.1136/gutjnl-2019-319954. [Epub ahead of print]

1.研究デザイン

【対象者】
2018年10月から2019年6月までの期間の日本の7施設で、腹部症状のある人や胃がん検診の目的で上部消化管内視鏡検査が行われた患者をエントリー。20歳から79歳までで胃の生検組織の培養からピロリ菌が検出された患者が対象。(ピロリ菌除菌歴を有する者・除菌療法の薬剤にアレルギーがある者・プロトンポンプ阻害薬の使用・抗菌薬やステロイドの使用がある者・妊娠や授乳中の者・同意が得られない者を除外)
【ピロリ菌同定と薬剤感受性試験】
2箇所以上の胃生検組織からピロリ菌を同定し、アモキシシリン・クラリスロマイシンの薬剤感受性試験を施行。
【研究アウトカム】
対象者を無作為に以下の2群に割り付ける
・VA2剤群(ボノプラザン20mg/回+アモキシシリン750mg/回を1日2回、7日間)
・VAC3剤群(ボノプラザン20mg/回+アモキシシリン750mg/回+クラリスロマイシン200mg/回を1日2回、7日間)
内服終了後少なくとも4週間後に尿素呼気試験で除菌判定を行う

2.結果

【除菌率】
(ITT解析)VA2剤群:84.5% VAC3剤群:89.2% P値:0.073
(PP解析)VA2剤群:87.1% VAC3剤群:90.2% P値:0.024

*対象となった全数を解析したITT解析では、VA2剤群のVAC3剤群に対する非劣勢は証明できなかった
*対象からフィローアップできなかった症例や副作用で継続できなかった症例を除いた、PP解析ではVA2剤群はVAC3剤群に対して非劣性が証明された。
【クラリスロマイシン耐性がある条件での除菌率】
(PP解析)VA2剤群:92.3% VAC3剤群:76.2% P値:0.048

*クラリスロマイシン耐性がある群では、VA2剤群がVAC3剤群と比較して有意に除菌率が高かった
【有害事象】
 有害事象は下痢・腹部膨満感・便秘・皮疹などで両群に差は認めなかった。

3.結論

7日間のボノプラザンと低用量アモキシシリンの2剤併用療法は、ピロリ菌除菌療法として充分な除菌率を認めた。また、ボノプラザンを用いた3剤併用療法と比較してクラリスロマイシン耐性例に対して高い除菌率を認めた。有害事象は両群に差は認めなかった。

まとめ

近年、抗菌薬の使用拡大に伴い、抗菌薬が効かない細菌(耐性菌)が認められるようになり、治療に難渋するケースが増えてきており、問題となっています。なかでもクラリスロマイシン耐性菌は頻度が高く臨床上問題となっています。近年ピロリ菌の除菌療法は胃酸分泌抑制薬であるボノプラザンと、抗菌薬のアモキシシリンとクラリスロマイシンの3剤併用療法が広く行われており、日本では一次除菌療法として保険適応となっています。論文ではボノプラザンとアモキシシリンの2剤による除菌療法を、クラリスロマイシンを含んだ3剤の除菌療法と比較を行っています。

結果をまとめると以下のとおりです。
・2剤併用療法は3剤併用療法と同様の除菌効果がることは残念ながら示されなかったが、一次除菌療法としては充分に許容できる高い除菌率を認めた。
クラリスロマイシン耐性例ではむしろ2剤併用療法のほうが3剤併用療法よりも有意に高い除菌率を認めた
有害事象は3剤併用療法と差を認めなかった

この論文の結果で特に注目したいのが、クラリスロマイシン耐性がある場合は、2剤併用療法のほうが除菌率が高いという点です。
これからは薬剤耐性菌の存在を確認するためにもピロリ菌の培養同定とともに、クラリスロマイシンに対する薬剤感受性試験を行うことの重要性が高まってくるかもしれません。
今後の症例の積み重ねによる検討が必要ですが、ひょっとしたら現在保険適応となっている一次除菌療法の3剤併用療法から、今後は2剤併用療法が主流となる可能性を秘めていると思います。今後の検討に期待したいです。

ピロリ菌がいるかどうか気になる方や除菌について不安な方は、ピロリ菌除菌を積極的に行っている当院までぜひお任せください。
薬とドクター

~時間栄養学を生活に活かそう~ (4)腸内細菌叢の日内変動と病気について

2020/3/16
バランスのよい腸内細菌叢
 今、新型コロナウイルスによる肺炎(COVID-19)が話題になっており発症しないよう十分な対策が必要です。別のブログにも記載したとおり、予防にはしっかりした手洗いと、咳エチケットが重要です。

 手洗いが不足すると、新型コロナウイルスやインフルエンザ以外にもウイルスや細菌の体内への侵入を許してしまい、胃腸炎を生じることがあります。3月に入ったこの時期でも、胃腸炎症状で外来を受診される方が多いです。よく「腸の悪玉菌が増えてしまうので善玉菌が負けてしまい、腸炎をおこしている」といわれますが、そもそも腸内細菌とはどんな役割をしているのでしょうか?
今回の記事は、私達の腸管の中に住み着いている細菌(腸内細菌叢)と病気の関係、さらに体内時計により起こる腸内細菌叢の変化について考えようと思います。

腸内細菌叢と病気の関係

ヒトの腸管の中には100種類以上のさまざまな細菌が40兆個以上住み着いています。この腸管内に住み着いた多種・多様な細菌のグループのことを腸内細菌叢と言います。人の体の免疫システムは腸内細菌叢から様々な作用を受けています。
このようにヒトの腸管内に定着している細菌が、多くの臓器に相互に影響を及ぼしていることがわかってきており、ここ数年で腸内細菌叢に関する研究が非常に盛んになってきています。

(1)短鎖脂肪酸と腸内細菌叢の関係

食事で食物繊維やオリゴ糖を摂ると、腸内細菌叢の働きで腸管内で発酵・分解され、短鎖脂肪酸が作られます。この短鎖脂肪酸の増加は食欲の抑制やインスリン抵抗性の改善(少ない量のインスリンで効率よく血液から細胞内に糖分が取り入れられる状態)に繋がります。また短鎖脂肪酸の中でも酪酸は、制御性T細胞の誘導を起こすことで、体内の免疫系の調整に役立っています。また短鎖脂肪酸は腸管内を弱酸性に保つため、腸管免疫の制御にも関係しています。

(2)腸内細菌叢と腸管炎症の関係

炎症性腸疾患(狭義の意味でクローン病と潰瘍性大腸炎)は、腸管免疫の異常により腸管で慢性炎症が生じる難病です。炎症性腸疾患では腸内細菌叢のバランスが崩れ、存在する菌種の種類が数が少なくなることが知られています。また、ペニシリン系やセフェム系抗菌薬を使用した際に、腸内細菌叢が乱れ腸炎を起こすClostridium difficil感染腸炎は、再発を繰り返しやすく治療に難渋する病気です。健常者の糞便から得た腸内細菌をClostridium difficil感染腸炎の患者の大腸に移植する便移植療法が行われるようになり効果を上げています。潰瘍性大腸炎の患者に対して、抗菌薬投与後に便移植療法を行ったところ症状の改善があったとの報告もあります。またクローン病では Clostridium 属の減少による腸内環境の悪化が病態と関係があると考えられています。このように、腸内細菌叢の多様性の低下が腸管炎症と関係があると考えられます。

(3)腸内細菌叢と腸脳相関

腸管運動と脳は迷走神経を介して密接につながっており、これを「腸脳相関」と言います。強いストレスがかかると急に腹痛や下痢を生じる過敏性腸症候群という病気がありますが、これは「腸脳相関の乱れ」からくる疾患とも言えます。腸内細菌叢と腸脳相関の間にも関連があることがわかってきています。

(4)腸内細菌叢と神経疾患の関係

パーキンソン病の人は便秘を生じやすいことが知られていますが、短鎖脂肪酸の減少が病気を悪化させる要因と考えられており、腸内細菌叢との関係が示唆されています。その他、うつ病や慢性疲労症候群の方の腸内細菌はそうではない人と比較して腸内細菌叢のバランスが変化していることが知られております。

(5)腸内細菌叢と慢性腎臓病の関係

マウスの実験では慢性腎臓病を引き起こす尿毒素であるインドキシル硫酸やトリメチルアミンNオキシド(TMAO)は、腸内細菌叢が変化することで増加することもわかってきました。腸管と腎臓の間にも「腸腎相関」があると提唱されてきており、腸内細菌叢の変化は慢性腎臓病の発症とも相関があると考えられています。

(6)腸内細菌叢と心臓血管病の関係

TMAOの増加はマクロファージへのコレステロール蓄積を増加させ,血管内のプラークからのコレステロール引き抜きを減少させることで動脈硬化を進行させることが知られています。またTMAOは血小板凝集能を増加させることで血栓形成を促進します。腸内細菌叢の変化は心臓血管病の発症とも深く関与しています。

体内時計が腸内細菌叢に与える影響

これまで腸内細菌叢の変化が様々な病気に関係していることを記しました。時間栄養学について過去に記したブログにもるように、体内時計には親子の時計が存在します。親時計は脳下垂体の視交叉上核にあり、体内の末梢組織にはそれぞれ子時計が存在しており、腸管にも子時計が存在しています。最近の研究では、腸内細菌叢が体内時計の働きによって日内変動を生じていることがわかってきました。これについて基礎的な研究ではありますが、ご紹介したいと思います。

(1)日内変動をおこす腸内細菌叢

日常の食事の内容が変化したり、運動不足などさまざまな要因で腸内細菌叢の構成は変化します。また、一日の中でも腸内細菌叢の構成が変動を起こしています。ヒトの糞便ではバクテロイデス属で日内変動が確認されています。マウスでもラクトバチルス属やバクテロイデス属で日内変動があります。時間遺伝子をノックアウトしたマウスを用いた実験では、これらの日内変動が消失することがわかっています。また、高脂肪食を与えたマウスでは腸内細菌叢のバランスを変化させ、腸内細菌叢の日内変動のリズムを弱めることが報告されています。

(2)腸内細菌叢の日内変動のみだれが体に与える影響

時差ボケにより体内時計が乱れた時、腸内細菌叢の日内変動はどのように変化するのでしょうか。2014年にイスラエルで発表された論文では、実験的に時差ボケを生じたマウスの便や、遠距離の飛行機旅行にでかけた人の、旅行前・旅行中・旅行後の糞便を解析すると、時差ボケがない状態と比較して腸内細菌叢が大きく変化していました。とくに増加すると肥満を生じやすくなると言われているファーミキューテスの増加が認められました。このことから、体内時計を乱さないように規則正しい生活を送ることで、腸内細菌叢が安定し肥満を生じにくくすることが示唆されます。これらの研究結果は昼夜逆転がある人や夜勤で不規則な生活をしている人が肥満を起こしやすい理由の一つと言えるかもしれません

●まとめ

・腸内細菌は、様々な病気(消化管・心臓血管病、腎臓、神経疾患など)と関連がある
・腸内細菌叢の構成は一日の中で変化する日内変動があるが、高脂肪食の摂取は日内変動を小さくしてしまう
・昼夜逆転や時差ボケは腸内細菌叢の日内変動に乱れを生じ、肥満を起こす要因となる
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